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ゆりかごのうた



手をつないで、歩いている。
好きな人と。こんな繁華街を。大勢の人の前を。


「寒くないか?」


恋人つなぎの手。ごつごつした2つの手。
うれしくて、眺めていたら、話しかけられた。


「ううん。ぜんぜん」


最近はまっとうに喋れてなかった。
顔を見ると、好きだって思って。恥ずかしくて、素直になれなかった。

でも、服装ひとつでこんなに、変わるんだ。
素直になれてる。それは、きっと今、俺が女の子だから。


「なぁ、まだ帰らなくていいなら…オレんち来ないか?」


つないだ手に力がこめられる。
目を見つめられる。


井田の瞳をみると、のぼせた顔の女子が写る。
よかった。ちゃんと女子。


「うん…お邪魔したい…です」


顔が熱い。「そっかよかった」と井田は笑って、更に俺の手をひいていく。
ごつい手が2つ。
手前側の俺のほう。これがもっと華奢だったら、ちゃんと愛してもらえたのかなぁ。


「買い物したいからちょっと待ってて」


そう言って入ったのが、ドラッグストア。
飲み物とか、お菓子とか。それなら俺も選ぼうか。と言ったら、大丈夫と言われた。

手持無沙汰なので、店内をふらつく。
声をかけられる。

「急に声かけてごめんね。あまりにもかわいくてタイプだったから。ちょっと話しない?」

大学生風の男にナンパされてしまった。
うーん。断りようにも、喋るとばれるし。
いや、ばれてもいいんだけど、井田に迷惑かかるしなぁ…。

「青木、こっち」

ナンパから遮るように井田が肩を抱いてくれる。
「すごいなお前」と井田は言い、俺の手を握ってレジへと連れて行く。
店内の明るい照明での恋人つなぎ。非常にときめく。


◇


「青木、どうした?顔赤いぞ」

手をつなぎながらの道中、井田に声をかけられた。
そりゃあ当たり前だ。恥ずかしいんだ。今も!
恋人つなぎで迎えたレジでの清算。
この男は涼しい顔でコンドームとベビーオイルを買った。

店員さんが呆れた顔で、俺たちの顔を交互に見ていた。
そりゃあそうだ。俺だってそっちの立場なら、めっちゃ見る。

というか、家に来いってそういう事なのか?
この前まで恋愛したことないとか言ってなかったか?
恋愛経験はなくても性行経験はあるってのか!?
え?そんなただれたやつだっけ?


手をつないだまま、家に連れ込まれる。
玄関でローファーを脱ぐ。

洗面所を借りて手を洗う。
なんか、後ろにぴったりついてる。
洗面所の大きな三面鏡に井田と女子高生が写る。
うん。なんとか女子高生。


「これ邪魔」


と、被っていた茶色いウィッグをとられる。
いや、これないと。ダメだろ。


「うん。こっちの方がちゃんと青木」


乱れた髪を撫でられる。一気に女装になってしまった。
あれ?もしかして井田って。


「このスカート。むかつく。早く脱げ」


ホックを探す大きい手を慌ててとめる。


「借り物だから、ちゃんと丁寧に…んっ」


ファーストキスは一瞬だった。


「ごめん。でも、家に来たってことは、そういうことだよな?」


セカンド、サードと奪われていく。
純情ボーイだと思っていたのに、狼どころの騒ぎじゃなかった。

なんでそんなに慣れてるんだ!?と詰め寄ったら、青木が教室で着替えてる間にスマホで調べてた。
と返された。こいつ、学校で何を調べてんだ!?

そんなこんなのやり取りをしていたら、ホックとファスナーの正解に井田がたどり着いてしまった。
なので、橋下さんのスカートは、ぱさりと音を立て、床に着いた。

シャツにカーディガン。その下は素肌を晒している。
こんなところで何やってんだ。というか、こいつ手が早すぎないか?
ドン退く気持ちと、期待感と、単純なときめき。

もう数えられないキスに襲われて、股間に忍び寄る手に気づくのが遅れた。
やわらかいところを下着の上から撫でられる。
そこで、初めて、井田の本気と向き合った。


「なんだよこの下着…」


怒られている。でも、目も吐息も色っぽくて…。服従するしかない。
そんな風にしか思えない。


「女子がふざけて、しま○らで買ってきたみたい。こんな紐みたいなのあるんだな。
あ、そうそうバレー部のあいつ。名前なんていうんだっけ?
女子があいつに脱がせ方を教えてたんだけど、そういえば名前おぼえてないなぁーって…んんっ」


「絶対に教えない。一生忘れてていいから」


キスされたし、紐パンツは引きちぎられた。
ああ、これ。嫉妬ってやつだ。井田って、もしかして…。


乱暴にフィルムをはがして、ベビーオイルを紐の上からかけられた。
左側、引きちぎられた紐は役目をなくして、俺の性器を隠せない。
腰骨をやわやわと触りながら、井田は俺をベビーオイル漬けにしていった。


「んっ…んんっ…」


尻を執拗にもまれる。丹念に塗られる。
ベビーオイル。親にだって、こんなに塗りこまれたことはないだろう。

こんなに尻を触っているのに。右手では、俺のシャツのボタンを外していく。
時々、胸を触りながら、いやらしい手つきで。なんでこいつ、こんなにできるんだ?


「青木…いいよな?」


興奮しきった顔でそんな風に聞かれると、NOとは言えない。
だって、好きだから。そんな瞳で見られたら、こっちだって、嬉しくなってしまう。

頷くことで同意を示す。すると、井田は紙袋に入ったゴムを取り出す。
俺は心拍数を上げながら、ただそれを見てる。

ベルトを外しながら、口にくわえて、ゴムをアルミの袋からだす。
6個入りとか、Lサイズとか、ラテックスとか、そんな文字を目が追う。


「青木、つけてくれない?」


はいっ!って変な声がでてしまった。
そんな俺を見て、井田が笑う。

手渡された正方形には透明のスキン。
人に装着するのは初めて。自分だってこれを本来の目的で使ったことはないけど…。

反り返って腹筋につきそうな井田のペニス。
恐る恐る触って、スキンを先端にのせる。

俺も井田もお互いに下半身を見つめてる。
かわいそうなくらいに勃起しあってる。
井田も男が好きなんだなぁと、ぼんやり思ったりして。


「ひゃっ…井田っ」


一生懸命に装着作業に取り掛かっていると、乳首を掴まれた。
さらに捏ねまわしてくる。睨むと、意地悪そうに笑っている。


こりこりといじくられる。あ…あ…と声が漏れる。
でも、俺は手は止めないのだ。


「できました…」

「よくがんばりました」


おでこにチュッとされる。心臓が口から出ちゃう。
見つめあって、今度は唇でチュウ。

人に装着なんて初めてだ。でも、これがこれから俺の体内に…と思うと、ありがたい気持ちで作業ができた。
おっきいし、びくびくしてるし、すっごいエロいけど。
数分後を期待して、井田に装着した。俺、がんばった。


ぎゅうと抱きしめられて、はにかんでいると、また尻をもまれる。
今度はもう、ターゲットを絞った感じで。
オイルの追加、期待して井田の指を迎えた俺の穴は、とっても優秀だった。


ずぶずぶずぶっ

「んんーーっ…は、ああんっ…♡」


正面から抱えられて、ずぶ濡れの穴に挿入される。
カリを過ぎて、一番太いところが通過する時、だらしない声が漏れた。

井田のペニスの血管まで伝わるような、薄いスキン。
オイルもゴムのゼリーも挿入を滑らかにしてくれて、ぐちゅぐちゅって音も、興奮を加速させてくれる。


乳首を左右丁寧に舐めた後、鼻の先同士でキス。
それから、深いキス。

逞しい井田の背中に腕を回して、体重も全てお任せしてる。
井田は俺を乗せたまま、挿入を繰り返す。

俺は喘いでしまう。ねぇ、こんな声。聞いて萎えないの?


「いだぁ…いだ…んっ…あ…ああっ♡」


どうしたの?って耳穴に舌を入れられる。
「ああんっ♡」って声がでちゃう。


「なんでっ…俺とエッチするの?んんっ♡井田は俺のことすきなの?」


卑怯なことをしてる。
体内の井田の固さを感じて、強気に出た。
萎える気配なんかまったくない。
さっきから井田の顔は興奮しすぎて、やばい。
でも、ここで確認しておかないと、絶対ダメな気がする。
俺だって体張ってんだ。望む答えを頂きたい。


「好きとか…そういうところじゃなくて…青木以外に勃たなくなってるし」


心なしか、挿入が加速される。


「好き…好き?…うん、好きだ」


笑顔にきゅんときて、俺は高い声で喘いで達した。



ひとりで勝手に達した俺にディープキスをして、井田は俺をお姫様抱っこした。
こんなことできちゃうんだ♡ときゅんきゅんしていたら、部屋まで運ばれた。

ベッドにゆっくりおろしてもらって、またキス。

井田の黒髪が汗でぬれて額に張り付いている。
セットが崩れて、いつもより長い前髪をかき分けると、またキスをされる。


「オレ、まだだから…いい?」


俺が装着したままの、ずっと勃ちっぱなしの井田のペニスを見て、頷く。
むしろ、なんか。すみません。


ベットの上の俺に跨り、井田は俺にキスをする。
自分から足を開き、井田にどうぞと促す。
さっきまで入っていたところを確認するように指を入れられる。
大丈夫です。まだ濡れてます。そんなことを目で伝えると、にこって笑われる。
ああ、好き。


ぬちゅぬちゅぬちゅ


「ああん♡あ…ア゛ああっ…ん♡」


ゆっくり、ゆっくりと挿入されて。声なんて抑えられなくて、人の家で喘ぐ、喘ぐ。


「青木っ、青木っ」


そんな切なく呼ばれると、どうしようもなくなる。
今日とか、明日とか。洗面所に脱ぎっぱなしのスカートとか、ウイッグとか。
どうでもよくなる。

俺の中で擦れる井田のペニスが気持ちいい。
お互いに何度も果てて、痛みよりも快感が勝るころ、井田が舌打ちをしていた。
ゴムがなくなったらしい。
ほえーって思ってたら、閉められたカーテンから明るいものが見えた。
ああ、朝が来るんだ…。なんて思っていたら、また挿入された。
ぢゅぽぢゅぽって音を立てて、もう限界なはずなのに、挿入されちゃうと嬉しくて喜んじゃう俺の体。
なんかいろいろ終わってる。

ガンガンに奥の方をほじくられて、乳首を伸ばされて、愛してるんなんて言われちゃったもんだから、俺は安心して意識を飛ばしてしまった。
揺さぶられながらも、井田への愛情だけはしっかり満タンなので、
寝させる気がない井田に、体だけは自由にさせてあげることにした。



◇


「青木、起きれるか?」


んん…と寝ぼけながら、瞼を上げると、そこには井田。
ちゅっと軽くキスされて、二人で照れる。
夢…なんて思うはずがない。だって、体が滅茶苦茶痛い。


「ごめん。やりすぎた…起きれる?朝飯たべよう」


髪を撫でられ、おでこにキス。
「うん」と頷いて、壁時計を見る。11時…。いくら休日とはいえ、休み過ぎ。


歩ける?って抱きしめられながら聞かれる。
大丈夫って言ったのに、また姫抱きをされた。
この状態で階段の上り下りができるところが、井田のすごいところ。
恥ずかしくてうれしくて、抱き着いてしまう。
それを抱きしめ返してくれる腕、すごく好き。

ダイニングに着くと、いい匂いがした。
井田って料理できるんだぁ♡って思っていたら


「ああ、よかった。本当に青木君だったのね」


井田の母さんがいた。


◇


井田家のダイニングテーブルで3人で朝食をとる。


「わー。おいしそうだな♡」


と言った俺の言葉がむなしい。


「青木君、たくさん食べてね♡」


ほわんほわんした井田の母さんが怖い。


「青木は朝もパン派?」


隣で「和食でごめん」と心配そうな井田も怖い。

井田は朝食なんて作れるはずもなく、このおいしそうなメニューは全て井田母の手作りだった。
息子が男を姫抱っこして連れてきたことに対する、コメントはどこだろう?
あれ?なんだろ。これ。


「高校生になっても恋人ができないみたいだから、心配してんだけど…よかった青木君なら♡」


お味噌汁、口に合うかしら?の後にそんなことを言われる。
おっと、ばれてる。


「帰ったら、洗面所にスカートが散乱してたから、どこぞのお嬢さんを浩介が妊娠させたらどうしようと思って心配してたの」


げほっ。
味噌汁おいしいです。でも、吹いてごめんなさい。


「でも、よかった♡青木君なら妊娠の心配はないし、私、青木君が好きだから嬉しい♡」

「…わかんないだろ。青木、かわいいし。妊娠しないとはいえない」


顔を真っ赤にして井田が言う。息子の発言に「そっか♡」と返す、井田母。


いやいや、男だし。とかそんな事をいうのは野暮な気がした。
『お前らネジ緩んでる!』と罵ってやりたい気持ちと、『お義母さん、味噌汁の作り方教えてください』
っていう二律背反で俺は眩暈がした。

井田の方を見ると、相変わらずニコってしてきて。
俺は幸せでおかしくなりそうだった。




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