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さよなんかは、いわないで(後)



暗い部屋の中。
昨日の夜から、ずっとスマホの画面をみている。


金曜日、自習にこなかった想太。
友達と勉強会とのことだった。

土曜日はいつも逢えない。
なので、日曜日の日中だけが、密室で二人だけで過ごせる時間。


『明日、あえる?』


明日は日曜日。
忘れられてるとは思わない。
でも、聞きたい。
ちゃんと来てくれるの?って。

あまりの女々しさに眩暈がする。
こんなの送れない。でも、不安で、不安で。


軽い気持ちで想太と付き合いだしたわけではない。
男同士だし、かわいいな。ぐらいで手を出すほど、バカではない。

でも、最初はもっと余裕があった。一生懸命な想太を待とうと思ってた。

今は、縋りついてでも、想太と一緒にいたい。
わかってる。完全に嵌ってしまった。


もう、二日。会えていない。
いつもの挨拶も今日はこなかった。


今、何をしているの?
誰といるの?
なんで、連絡くれないの?
俺のこと、どう思ってるの?

あの男、誰?


絶対に送信できないメッセージ。
こんなみっともない男だなんて、絶対に想太には知られたくない。


ああ、頭が痛い。
でも、これはきっとスマホのブルーライトのせい。
決して、みっともなく泣いているからではない。

今までの、想太とのやり取りをスワイプする。
おはようからおやすみまで。
毎日の他愛無いやりとり。

そういえば、写真が一枚もないな…

次に会ったときに撮ろうと。気持ちを盛り上げるが、最後のやりとりは2日前。
それが視界に入ると、吐き気すらおきてくる。

女々しい涙で画面が揺れる。
すると一日千秋がひゅっと画面に入ってきた。


『明日、10時に部屋に行っていい?』


想太の画面には、既読がすぐにつくのだろう。恥ずかしい。でも、心底、ホッとして…


『待ってるよ。気を付けておいで』


自分でも笑ってしまうほど愚か。
でも、こうやってかっこつけないと、自我が保てない。


想太の好きなもの、作ろう…。


ようやくベッドから立ちあがる。
昨日の夜から飯も食べていない。

まずは力をつけなくては…。


明日。会ったら、想太を抱く。
先週我慢した功績など、どうでもいい。
部屋に閉じ込めて、毎日一緒にいよう。
離れなければ、いいんだ。


そうだ。そうだ。と思いながら、俺はシャワーを浴びに部屋を後にした。


◇


岡野くんに、ようやくメッセージを送ることができた。
悩みながら、何度も書いて。消して…。
結局、家に行く時間だけを送った。

恋をするのも、恋人になるのも。
全部、岡野くんが初めてだった。
岡野くんの俺を呼ぶ、甘い声。
惚れ惚れするほどのハンサムが、俺にくれる笑顔。

大好きだ。本当に大好き。

本当に…岡野くんのことが、ちゃんと好きなのに。
俺の不埒な脳みそは、あいつをフラッシュさせる。

鬼の形相の背の高い男。
でも、笑った顔が爽やかで、その瞳を見ないようにしていた。

うすうす気づいてた。あいつの気持ち。
というかそうじゃなきゃ、わざわざ俺に構わないだろう。

なのに、突き放せなかった。ずるずると過ごしていた。

夜道とはいえ、人通りがある路上でキスされた。
岡野くんなら、絶対にしない行為。

次の日。案の定、告白された。

断るに決まっていた。
でも、屋上で青空の下、キスをしたら…。
気づいてしまった。


明るい陽の下でのキス。俺と岡野くんでは絶対に無い。
こんなに幸せなことが、岡野くんとはできない。

それは、ダメだろう。
岡野くんには、陽の下が似合う恋人がいなきゃダメだろう。


◇


「いらっしゃい…想太」


3日ぶりに恋人に会う。
相変わらず、かっこよくて。俺なんかがこんな話をするのは
おこがましいんじゃないかと思えてくる。

腰に回る手。そう、岡野くんはいつもスマート。
かっこよくて、大人で、余裕があって。だから…きっと俺とのことなんて、すぐ忘れるだろう。


「…今日は中には入らないから、このまま玄関で話すね」


岡野くんの体がピタリと止まる。
深く、息を吸う。これからいう言葉、しっかりと伝えられるように…。


「俺からこんな話をするのは、すごく…おこがましいんだけど…」


岡野くんは何も言わずに、俺の顔を見つめた。経験から、察してくれているのかもしれない…。
本当にいつも、大人の岡野くんに甘えてた。


「岡野くん。いつも、隠れて付き合わせてごめん。俺が男だから…。皆んなに祝福されるような、恋人になれなくて、ごめん」

腕を組み、玄関の壁にもたれる岡野くん。俺のつたない言葉を待ってくれているんだろうか。


「岡野くんは、かっこよくて、素敵だから。
ちゃんとお日さまの下で、手をつなげるような恋人が、いい。
だから、俺とは別れたほうがいい」


いつも笑ってくれる岡野くんの顔が今は怖い。
初めて見る岡野くんに泣きそうになる。
でも、甘えちゃいけない。ちゃんと言わなきゃ…。


「あと…。ハプニング的なものなんだけど、俺、他の男とキスした」


岡野くんの体がピクリと動く。


「岡野くんと付き合っているのに最低なことをした。本当にごめんなさい…」


うつむき、声が小さくなる。すると、手首を掴まれる。


「誰に、されたの?」


岡野くんが怒っている。初めて、見た…。


「それは言わない。でも、そいつにキスされて嫌じゃなかった。
これは浮気になる。岡野くんに不誠実なことした…。本当にごめんなさい」


握られた右の手首を、左手でほどく。


「不誠実なうえに、岡野くんを陽の下に連れて行くこともできなくて…。
…岡野くんを幸せにできなくて…ごめんなさい」


バカな俺は、自分の言葉に酔って、涙があふれてくる。


「もう、ここには来ません。今まで、本当に…ありがとうございました」


最敬礼。よりも体を折って、頭を下げる。


泣いてるかっこ悪い姿を、岡野くんに見られたくなくて。
そのまま、顔を見ずに玄関の扉を開けて、体を外に出した。

初めて、この扉をくぐった時。
浮かれていた俺は幸せでいっぱいだった。


パタン
扉のしまる音。




俺は、岡野くんのことは、一生忘れないだろう。
恋を教えてくれて。その終わりを教えてくれて、ありがとう。



◇



岡野くんのマンションを出ると、目の前に井田がいた。

「なに、泣いてんだよ」

距離感がバグってる井田は、俺の目尻に気軽に触れる。

「なんで、ここにいるんだよ…」

涙を拭われた。そして井田の大きな掌が俺の顔を包む。

「もう少し、出てくるのが遅かったら乗り込もうと思ってた」

そう言ってはにかむ。井田。
ばかばかしいほど、心臓が高鳴る。

「ちゃんと別れてこれて、えらかったな。
…これで、オレたちは恋人同士ってことでいいんだよな」

近づく、井田の顔。
キスしようとする井田の頬を両手で押し返す。

「お前と付き合うために別れたんじゃねーよ!」

明らかに不機嫌になる井田の顔。

「ごめん。今は…待ってほしい…。俺の失恋の傷が癒えるまで…」

ため息をつく、井田。

「とりあえず、今日は俺んちで勉強でもするか」


このまま井田の家に行く…ことになったらしい。
それはいいが、差し出されたその手は…何?

「何してんだ。早く行くぞ。ここには1秒たりとも長居したくない」

モタモタするなと、手を握られた。
昼前の路上。疎らだが、人がいる…のに。

「なんで、井田は外なのに…皆んなが見てるのに手を繋ぐんだ…?」

俺の手を握って引っ張っていく、井田に聞く。
恥ずかしい。でも、手を振り払えない…。

「そりゃあ、好きだからだろ?皆そんなもんなんだろ?恋人なんて」

笑う井田には陰りが全く見えない。
陽の光がこの上なく似合う。


井田に対して湧き上がってくる感情の名前。それを俺は知っている。
でも、今はそれに気づかないことにした。


◇


意識を飛ばすと、逢える。



ああ、想太。今日もかわいいね。


手を伸ばすと、想太からも俺に抱き着いてくれた。
キス。丁寧に何度も、深く、深く何度もする。


裸の想太が、何度も俺のことを好きと言ってくれる。
想太、想太…俺も、俺も好きだよ。


あの日。目に焼き付けようと何度も確かめた恋人の裸体。
それが霞かかってきている。


ダメだ…。まただ。あそこには戻りたくない。ここに、このままいたい。


想太の後ろから、真っ黒な腕が伸びる。
それを俺は泣きながら見ていることしかできない。


黒い腕は想太を俺から奪っていく。
そして、想太を淫らに喘がせる。


俺のことを好きと言った可愛い想太の唇が、残酷に動く。


「ごめんね。俺はこの人が好き。さよなら岡野くん」


嫌だ。いやだ。そんなことを言わないで。

…でも、良いから。どんな酷いことを言ってでもいいから。居なくならないで…。
居なくは、ならないで…。



強烈な熱さが、腹の中から湧き上がる。


ゴボッ。ゴボッ。


体内で爆発したものを、口から吐き出す。
部屋中に嘔吐特有の匂いが充満する。

固形物など、とっくにでない。黄味がかった胃酸を吐き出すだけ。
腹が熱い。頭が痛い。そして、何より。心が辛い。ただ、ただ辛い。


あの日から、何日経ったのだろう。
暗い部屋。ベッドの上で虫のように蠢く俺に、日常などは、もう無い。



『何故、俺はあの時。想太が出ていくのを止めなかったのか?』


そんなことばかりが浮かんで、後悔でどうしようもなくなる。

どこかで覚悟していた想太からの別れ。


想太を守るつもりの俺の態度は、想太を不安にさせていた。

俺のために身を退くという想太。
それは勘違いだよ。とキスでもして、部屋に連れ込んでしまえばよかった。

ベッドに投げて。上から体重をかけて、押し倒して。服を破いて。
無理矢理でも、挿入すればよかった。


でも、あの時。体が動かなかった。

キスをした、と。いうから。
男と。俺以外の男とキスをしたっていうから。


あの時、顔まで見えなかった。あの男。
目の前の想太よりも、そいつへの殺意が上回った。

そして、その怒りに呑まれている間に、想太からの言葉に殺されてしまった。


…浮気?
なんだっけ。それ。
知っているはずの単語が、頭でエラーを起こす。

何なら、自分でもやったことがあるワード。
でも、想太の口から出てくることは想定外。

完全に破壊されてしまった。


「そうた…」


下半身に手を伸ばす…。よくこんな体でここだけは、まだ動くもんだ…。
反り返る自分のペニス。
なんだかおかしくて嗤う。


「そうた…そうた…」


ここ、現実には用がないんだ。
だから、早く飛ばしたい。…意識を。


月曜日。少しの可能性を期待して出勤したら、想太の退塾届けがあった。
電話番号は知らなかった。ラインでやり取りをしていたから。
だから、ブロックされると、簡単にも繋がりが切れた。


その日のうちに、俺も辞めた。
ここにいたら、壊れると思った。
いつも想太が座っていた席。
何度も、撫でて気味悪がられた。

職場から部屋に戻ると。足が動かなくなった。
壊れると思っていたが、とっくに壊れていた。


あれから、ずっと。頭のおかしくなった俺は、ここにいる。



「…そうた。そうた。…そうた…」


霧が、想太の裸体を霞ませていく。
追いかけるようにペニスを扱く。


「そうた。…そうた。…そうた…あぁ」


黄色の吐瀉物にかかる。精液。

こんな汚物だらけで汚れたベッド。そこで蠢く俺は虫。



薄れていく意識、今日も想う。




このまま死ねないかなぁ…



◇



今日も屋上から見上げた空は、快晴だった。


日課となっている井田との屋上相談会。
特に相談はないが、毎日会場入りしている。

秋も深まり、校内は文化祭の準備で浮ついている。
俺もソワソワしている。


あれから…。岡野くんとお別れしてから、ある程度の時間が過ぎた。
それは、岡野くんと付き合っていた期間と同じくらい。

思えば、短い付き合いだった。でも、それだけ、濃厚だった。


井田は、あれから穏やかだった。

待っていてくれている。それがわかった。
ここで強請られた時とは同一人物とは思えない。それほど、穏やかだ。


そして、今度は、俺が我慢できなくなった。

もっと井田に近づきたい…。
だから、今日。告白をする。


いつも、隣り合って座っている。
それを正面に回った。

ん?と井田が俺をみつめる。


「井田、話がある…」


井田は読んでいた本を置いた。
俺を見つめ返してくれた。


「…好きだ。俺と付き合ってください」


そういえば告白は初めてだ。
井田は訳が分からないから。断られるかもしれない。
でも、それなら今度は俺が追いかけてやる…。



「はぁ…やっとか」


ため息をついて、そして笑う。
井田の笑顔、もう言い訳ができないくらいに好きになっている。


「待たせた分、サービスしろよ?」


近づいてくる井田の顔。俺は、それよりも早く、井田にキスをした。


「よろしくお願いします…」


唇が離れた後、そう言ってお互いに笑った。


もう一度、キス。
そう思って目を閉じて近づく…。


再びの唇まで、あとわずか。そんな時。
屋上の出入口が『ガララ』と響き、
今は、もう。懐かしい声が聞こえた。


「…想太。こんなとこに居たんだ」


後ろを振り返ろうとする。その前に見えたのは、あの鬼の井田だった。


◇


「…岡野くん?なんでここに??」


こんな青空の下、彼を見たのは初めてで。
幻の類かと、そう思った。


「ここ、俺の母校。忘れてた?OB会として文化祭に参加するから。その準備で」


そういって、ネームプレートを見せる。
ちゃんと本人だった。


こちらに近づいてくる岡野くん。

俺も立ち上がる。


「想太…逢いたかった。あの時は、俺の話が伝えられなかったから…。
話をしたかった」

岡野くんと向かい合う。
後ろから井田が抱きしめてくる。
わかってる。俺の恋人は、井田だ。


「想太…。俺こそ、想太に辛い思いをさせてごめん。
男同士だから、隠したい…それは、想太に傷ついてほしくないから、と思っていた。
それが、想太を傷つけてると思ってなかった。本当にごめん」


岡野くん…少し、やつれた?
胸がチリリと痛む。
俺の揺れに気が付いた井田が、抱きしめる力を強くする。


「想太が、俺のことを思って離れると言ってくれたの…辛いけど、気持ちがうれしかった。
俺を幸せにしたい。そう思っていてくれたんだね」


岡野くんは、俺の後ろにいる井田をまるで見ていない。
俺だけを見て、しゃべる。


「想太…。想太がいないと、俺は生きられないんだ…。想太と別れるなんて嫌だ」


涙目の岡野くん。俺は驚いている。
目の前の彼は、俺の知ってる岡野くんとは程遠かった。

俺の中で岡野くんは、とっくに美女と付き合っているはずだった。


「想太…。お願い。せめて俺の前から消えるのはやめて…逢えないのだけは、嫌だ」


岡野くんの涙。初めて見た。
思わず手を伸ばしそうになる…。


「青木、揺れるな」


抱きしめてくれていた井田の手が、俺の両耳をふさぐ。


「青木。別れの理由を相手のためとか言うな。それがお前の隙になる。
ちゃんとこいつに言えよ。オレが好きだから、別れるんだって」


そうしてキスをした。さっきまでの触れるだけのキスじゃなくて、深いやつ。
岡野くんに見せつけるように、長めのやつ。


唇を離すと、井田が何か言いたそうな顔をしていた。
ごめん、井田。ちょっと待ってて。


「岡野くん。この人が俺の好きな人。だから、もう岡野くんとは会わない」


今度は、はっきり岡野くんの目を見て言った。


そして、井田と手をつないで、屋上を出る。


岡野くんがこちらを見ている。

ごめん。岡野くん。
俺が大切にしなきゃいけないのは、もう。井田なんだ…。



◇



文化祭が終わった。
都合よく、親は外泊。

もちろん、青木を連れ込んだ。


オレの部屋で、顔を赤める青木。
その、足を舐める。


「井田…。こんなことして、たのしい…??」

「…サービスしてくれるんだろ?」


足舐めを再開するオレに、これじゃあイメクラだろと青木の呆れた声が降ってくる。

ベッドに青木を腰掛けさせて、素肌の脚を舐めていく。爪先から、足首。ふくらはぎ。
もっと奥まで続けようと、青木のドレスを捲り上げる。


「大きな荷物を持ってると思ったら…まさか。こんな…んんっ」

腿の内側を吸うと、青木の声がエロくなった。

クラスの劇でシンデレラをやった。
オレたちは大道具。
主役カップルの演技を裏方で見ていたが『ちがうな』と思っていた。

「やっぱりこの衣装、青木が一番似合う」

甘い声を抑えようと、口を手で塞ぐ青木。
その手を解いて、お姫様に口付けをした。

ズルッ

胸元はだけたドレス。その胸元を勢いよく下げる。

青木の甘い声と共に、ぷるんとした乳首が見える。


うっわ、エッロ。

「井田…ばかっ…」


声にだすつもりはなかったのに、出てたらしい。胸を隠す青木に、まぁまぁとキスをしながら、宥めていく。

もっと、よく。その体を見せて欲しい。


「…俺、女装が似合うほど華奢じゃないし…こんな格好が好きなら、可愛い女の子と付き合えばいいのに…」

ノリノリで着てくれてるとは思わなかったが、明後日の方に勘違いして、落ち込み出してる。

青木の勘違いをそのままにしない事。
オレはあの男の死からそれを学んだ。


「このドレスは青木が一番似合ってるって言ってるだろ。大好きな青木が着てるから、良いんだよ」


そもそも、こんなものを着せなければ、起きない揉め事かもしれない。


「青木、すごくかわいいよ。オレは男とか女とかじゃなく、青木が大好きなんだよ」


伝わって欲しい。そう思って丁寧に言う。
青木の顔が赤くなり、瞳が潤む。
本当に可愛い。

キスをしながら、エロい胸に触れていく。
んっ…んっ…と跳ねる体。
どエロい。


「井田ぁ…俺も、井田が大好きぃ…♡」


ディープキス。互いの唇が離れると糸がひく。柔らかい舌、もう一度レロレロと絡め合う。

良かった。青木の誤解が解けた。
青木は傷つく事があると、なんでも無い風を装いながら、どこまでもネガティブになる。
十代男子のお茶目な欲望が別れに繋がるなんて、悲劇的すぎるだろ。
別れのフラグ、そんなものは発生する前に折る。


唇を啄んだり、吸ったり。舌を絡めたり。
オレは想像で何度も青木にしていたが、青木は実践を踏んでいる。


あの男、…岡野。
屋上で青木に息の根を止められたはずなのに、文化祭当日の今日も、校内をうろついていた。

舞台も観にきていた。終わると裏口で待機してやがった。

でも、ご自慢の顔があいつの弱点となった。
クラスの女子に『お前らが騒いでいたイケメン。あそこにいるよ』と声をかけたら、岡野に群がってくれた。
お陰で、青木を移動させる時間ができた。

その後はバレー部の部室に青木を隠した。一般来場者と共にOBは校舎から追い出された。

部室で押し倒してやろうかと思ったが、ここで誰かきたら、青木がヘソを曲げそうだしと思って我慢した。
部屋に連れ込んで、抱き潰してやる。呑気にオレのシューズを見て『井田のおっきい』と言ってる青木を睨んでおいた。


「井田っ…はずかしい…」

そして、ようやく。オレのベッドの上には青木がいる。
ドレスを腿までたくし上げ、胸を晒すオレのシンデレラ。青木のふわふわの髪が好きなので、カツラは借りてこなかった。

側から見れば完全に女装。
でも、それがエロくて良い。

ベッドの引き出しから、用意していたものを取り出す。この日のために、ポチッといた。


「はい、青木。これガラスの靴」


スケルトンのバイブ

これを買った時は、衣装を拝借しようとは思ってなかった。単純に青木のナカをどこまでも見たくって、これにした。

ガラスの靴を王子が履かせるシーンがあったな。と思い、バイブを青木の足の指にあて、青木の足ごと、ピンクのローションをかけてやった。

ヌルヌルと大量のピンクに濡れる足。
足の裏にバイブを擦り付けると、くすぐったいのか、感じているのか。青木が揺れる。

ローションを掌に取り、片手でエロい胸にも撫でつけた。

濡れた乳首を強く摘むと「あんっ」って鳴いた。コリコリコリ。乳首を責める。

「あっ…ああんっ…いだぁ…ダメぇ……♡」

「好きだよ。青木、大好き」

乳首を捏ねながら、濡れたバイブを移動させる。青木のちんこを目指して。

「ひゃっ…やだっ…♡」

下着の上からバイブをあてる。ボクサーパンツ越しに、青木のちんこの形がはっきりわかる。ちんこの先端にバイブをあて、ローションをドバッとかけた。バイブの電源も入れた。


「ひっ…!だめっ♡だめぇ♡」

「だめじゃないだろ、青木。ほら、青木のちんこ、ビクビクしてる。先っぽが弱いの?」

「だめっ♡だめぇ♡イっちゃう…♡あっ…
…あああんっ♡」


大きく跳ねて、青木のパンツが内側からじわっと濡れた。

…早く、脱がせたい。


「井田のへんたいっ…!衣装、汚したらダメっ!!」

そう言って青木は男らしく、ドレスを脱いだ。ベッドから降りて、律儀にドレスをたたんでる。

濡れた下着が気持ち悪いのか、膝立ちでの作業。後ろからだと、尻を振っているようにしか見えない。

ビリッビリリッ

「へ?井田?…え?」

「下着は弁償する。ごめん」

丸い尻に手をかけ、割れ目のあたりで破いた。
裂けた布の合間から、いやらしいアナルが見える。

とぽっとぽぽぽ

ローションを垂らす。
両手の親指で、捏ねながら、青木のアナルを開いていく。

「やぁっ…いだっ♡そんな…」

くぱくぱとエロいアナルが誘ってくる。
クソ、こんなのずるい。


「青木、あいつとは、何回やったの?
今日だけで、あいつとの回数を超えたい。青木のエロい体をオレだけのにしたいっ…」


拡げたアナルにバイブを突っ込む。
ローションでテカテカに濡れたアナル、もっとスムーズに挿入ると思ってた。


「んん゛っ♡あんっ♡ちがっ…ちがうっ…」


涙目でオレを煽る。やっぱり、青木は淫魔。
小刻みに震えるバイブ。中で捻るように回しながら挿入していく。


「んんんッ♡…ん゛っ…あっあっ…ああんっ♡」


スケルトンにして良かった。青木のピンクの中味が充血していくのが観察できる。


「青木っ…。初めてのオレに教えて。いつになったら、挿入れていい?
どこまで、青木のエロいアナルを拡げたら、オレのちんこが入ると思う?慣れてる青木ならわかるだろ?」


耳元で囁くように言った。青木におねだりしてほしい。オレのが欲しいって。そうしたら、青木の経験値に対して、少し溜飲が下がる。そう思っていた。


「ちがっ…♡ちがうっ…って…んっんんっ…
はなし、きいてっ…おれっ、おれもはじめてなのっ…あっ♡ああんっ♡」

「え?」


思わず、手が止まる。


「んっ…♡岡野く…前の彼氏とは、最後までしてないっ…からぁ…あんっ♡」


青木の濡れたアナルには無機質な電子音を鳴らしたバイブが刺さっている。


「あっ…あ゛っ…ああ゛っんんっ…♡」


そこをどけ。
そんな気持ちで、オレは勢いよくバイブを抜いて、投げた。



ジュッ、ジュブッ ジュブブッ

青木の上に乗り、腰を回し挿入する。グリグリっとカリで奥の敏感な部分をつぶす。


「は…はっ…あ…あ゛ああっ♡」

「青木の体、エロ過ぎ。本当に初めてなの?これで処女なんて信じらんない…」


誰ともしたことがない?にわかに信じられなかった。
あの男だけじゃない、こんなエロい体、絶対に誰かが気付いて、ちんこを嵌めるはず。

でも、初めてだから…と青木に言われたら、うれしくて、うれしくて舞い上がってしまった。

狭くて、挿入すると辛そうだった。
でも、こんなトロトロで…。挿入したら挿入した分、搾り取ってくるようなアナルが、まだ未開なんて…。

神に愛されすぎだろ、オレ。


「…ほんと、だからぁ… いだ、が…はじめて…んっん゛んっ…あっああ゛あん♡」


可愛いことを言われると、俺の意思に反して、ちんこが青木の中で暴れる。
はやく、はやく出したい。でも、まだ。まだだ。


「青木は初めてちんこを挿入れられて、こんなぐじゅぐじゅになるの?
欲しい欲しいって、俺のちんこを咥えて放す気ないだろ?
やっぱり青木は淫乱だ。絶対にオレ以外のちんこを咥えるなよ」

「んあ゛あっ♡いだぁ♡いだ…としか、こんなことしないっ…♡♡ああ゛っん♡きもちいい♡
いだのおちんぽ♡きもちいい♡あっ、あ゛ああっ♡」


パンパンパンパンッ グジュグジュ…ッ


濡れた音を立てて、固い肉がぶつかり合う。
止まらないピストン運動に溺れてしまう。
すると…


「いだ♡いだぁ♡だいすき♡」


オレの首にしがみついて、あんあん喘いでいた青木が、ゆっくりキスをしてきた。
オレは我慢できず、果てた。


◇


疲れているのか、焦点が合わずまどろむ青木の髪を撫でる。

オレに吸われた唇も胸もはれぼったく、赤く染まっている。


キスをすると、青木は瞳を閉じて応える。
唇を離して…見つめあって…またキス。


「ごめん…初めてなのに、青木にひどくした。
勝手に妄想して、嫉妬してた…」


あいつの痕を塗り替えてやろうと思って、そればかりが膨らんでいた。
嫉妬以外の何物でもない。


「ううん。おれのほうこそ。…井田にあげられる初めてがあってよかった」


儚げに微笑む青木、かわいい…ん?


「…青木、初めて。なんだよな?」

「うん…その、ちんこを挿れらるのは…はじめて…」


顔を赤らめる、青木。


「何なら挿入された事あるんだよ。おかしいと思ってたんだよ!お前ホテルで何してたんだよ!」

「え?何ならって…指とか…舌とか…?」


なんだ、あいつ。逆にすげぇ。
そこまでしておいて、挿入だけは我慢しただと?


「俺、あんまりフェラも多分上手じゃないし…だから、尻でよければ挿入してくれていいのにって思ってたんだけど…。卒業までは我慢するって言ってくれてて…」


敵ながらあっぱれというか、すごい精神力だ…。
…諦めてる感じもないし、このままあいつが青木の周りから消えることはないだろう…。


「挿入されるって、もっと痛くて苦しいと思ってたんだけど…すごく…きもちよかった…」


ああ、青木、お前はダメだ。


「んっ…はあっ…井田?」


深くキスをした後、青木を初めて本気で睨んだ。
余所で、挿入されて気持ちよかったんて言ってみろ…。お前のその可愛い舌を、噛み切るぞ。


余計な回り道があったが、そもそも青木はオレのもの。
オレの方が青木との出会いが早いのに、のんびりしていたら掻っ攫われた。
あいつだけじゃない、これからも。いや、今も青木のことを虎視眈々と狙う不届き物は、雨後の筍の如くだろう。


きょとんとした可愛い顔で俺を見つめる青木。
24時間、ずっと戦う。そのつもりはあるけれど…。


「青木、オレで最後にして。お前の恋はオレで最後にしてほしい」


懇願する。顔を真っ赤にして青木が頷いてくれた。

今回の敵との一戦で、青木が懇願に弱い事を知った。
そのチョロさに心配になる。ほんと、これからも気が抜けない。


青木の体を強く抱き寄せて、オレはこれからも続く戦いに、挑む決意をした。





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