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ドキドキしちゃうよ☆
「はあ…モテたい」
「こじらせてんな。青木」
あっくん相手に愚痴ってみる。
バレー部メンバーと一緒に行った合コン。
気になる女子ができるはずもなく、井田のモテっぷりを見せつけられて、絶望した。
好きだという気持ちを強く自覚させられ、ひがむばかり。
確かに、井田に彼女ができなかったのは、朗報なのだけど。
「なんで、俺。モテないんだろう…。何がイケないというんだろう…」
似たようなモンのあっくんに彼女ができて、俺にできない理由。
何度考えてもわからない。
似たようなアホのあっくんが、橋下さんに好かれているのに、俺が好かれない理由。全く、わからない。
「おいおい、井田はどうしたよ。不安定だなぁ、お前」
どーでもよさそうに、スナック菓子を口に入れるあっくん。
そもそも、お前があんな合コンに行かせるから、こんな気持ちに…!
「なに?青木、これ欲しいの?ほれ」
指ごとかじる。いてぇー!と言ってるが、罰が当たったと思え!
橋下さん。少し、痛めつけておいたよ。
「…仲、いいな。お前ら」
『ひっ!』
気づいたら、横に井田がいた。
わらわらとバレー部のメンツも近寄ってきた。
井田とは、ハプニングの告白で、暫定的な友達になった。
誤解だったと嘘をついたら、ただの友達になった。
井田と俺の関係は、友達。
…いや、それ以上になることなんてないんだけど…。
「オレさー。実は青木に、お願いしたいことがあるのよ」
一緒に合コンに行った井田のチームメイトが、急に真面目になる。
名前が思い出せないけど、今更聞くわけにもいかない…。
「ほら、コレなんだけどさ…」とスマホを見せてくる。
文化祭の時のシンデレラ。死んだ魚の目の俺と大男が写っている。
撮影会と称して、おもちゃにされた黒歴史。
「中学の時の友達が、彼女できたって自慢するからさー。
オレもできた!って言って、この写真送っちゃったんだよ…」
大男が申し訳なさそうに上目遣い。
「でもさー友達が信じてくれなくてさ。会わせろって言うんだよ…」
いやいやいや。顔を赤らめるな。
何と話しかけようか考えていると、ガバッと床に手をつき、大男が土下座をした。
「青木ッ!頼む!!オレの彼女になってくれ!!」
「却下!」
なぜか、そう言って井田が土下座の頭を踏んでいた。
◇
放課後、女子も男子も入り混じり。
異様な雰囲気で、討論大会が行われている。
「清楚がいい!!清楚っ!清楚っっ!」
「男子のバカ!清楚よりも親しみやすさのほうが大事だから!!」
あいつの土下座とオレの足蹴で、クラス中に知れ渡るようになったイベント。
放課後はいつの間にか、青木にどんな女装をさせるかの討論会になった。
塾に行く時間のはずの委員長が、男子の意見をまとめてる。
どうやら化粧について、男女間でもめてるらしい。
浮かれるクラスメイト。誰ひとり帰らない…。
それを理由にオレも、居残った。
教室の隅では橋下さんとその友達が、青木を囲んでいる。
橋下さんにスカートを借りるらしい。
青木は顔を赤くして、何度もいいの??とジャージ姿の橋下さんに聞いている。
スカートを抱えて、鼻の下が伸びている。
「なんか、面白いことになってるね…」
フリーゲートの教室に駿が入ってきて、オレの隣に座った。
これで2年の部員が全員そろう。
「青木に女装って…。あいつも…まぁ突拍子のないことを言うけど…浩介は、いいの?」
『何が?』と返事しようにも、声が出ない。
ずっと、胸がムカムカして仕方がない。
青木は急ピッチでこしらえられたパーテーションの裏に連行されていった。
『よくスカートはいったねー』ときゃいきゃい言う女子たちの声が聞こえる。
何もかもが面白くない。なんだ、これは。
「で、井田はどっちよ?」
いつの間にか駿とオレの間に、相多がいた。
『何が?』と聞く前に相多が続ける。
「清楚系と、セクシー系?」
「なんもしなくても、青木はかわいいだろ」
パーテーションの奥が気になって仕方ないオレは、駿と相多が顔を見合わせていたことを知らない。
◇
前回は自分で言い出したから、仕方ないとして。
『おおーーっ』
今回は解せない。
クラスメイト…。いや他もいる。その面々の前で、俺は二度目の女装をお披露目した。
「青木!かわいい!アホなの知ってるのに!かわいい!
コラ!男子!!無言で写真撮らない!」
クラスの女子に囲まれて色々といじられた。
ペタペタ色々なところを触られた。
ああ、これがモテ期…と感涙していたら、
こういう、毛とか体の薄い所とかが、青木のモテないとこだよねーとなじられた。
女子からのなじりをご褒美と思えるほど、まだ俺は成熟していない。
ほらほらと周りに促され、井田のチームメイトが俺の前に来る。
教室内を見回すとバレー部の部員がそろってる。
もちろん、井田もいる。
「あ、青木…か…かわいい」
井田を見ていて、目の前の大男を忘れていた。
そんなに顔を真っ赤にして褒められても、ちっとも嬉しくない。
でも…。
「本当に付き合うのは無理だけど、話し合わせるぐらいは…まぁやるよ」
「あおきぃ…♡」
バレーやってるし、背が高いし、黒髪短髪…よく見ると似てなくもない?
一日だけの名前も知らない彼氏に、思い人を重ねて溜息をついた。
◇
待ち合わせた駅前のロータリー。
背の高い男女のカップルと対峙する男は一人で来ていた。
「つーことで、オレの彼女。青木さん。」
「ぐ…!!!」
青木は、華奢に見えても、背も高いし、女子に比べればごつい。
でも、クラスの女子のおかげか、カツラのおかげか、今日は女子感がある。
女子と紹介されれば、女子でイケる。
「なんで、こんなかわいい子が、こんな奴と…!」
同感だ。呼び出された中学時代の友達とやらに、同情する。
声を出すと男とばれる、だから青木は隣でにこにこ笑うだけ。
そういう作戦らしい。
「ほ…本当につきあってんのかよ…」
友人の言動が怪しくなる。
「どうせこいつに頼み込まれて、ついてきてるだけだろー!」
ご明察。オレは感嘆した。
「ほ、本当に付き合ってんなら、キ…キスしろよなー!」
蹴ろうと思って、飛び出したら、
周りもみんな飛び出していた。
クラス全員。各々の木陰から、二人を監視していたから。
あんたしつこいー
あんたこそ本当に彼女いるのー
青木はうちのアイドルなんだから、そんなヨゴレなお仕事させませんー
そう言って責め立てる女子たち。それはまるでわが子を守る母のよう。
わさわさと湧いてくる7組に、呼び出された友達が涙目になっている。
いつの間にやら駅のロータリーでは座談会が開かれていた。
中学時代の友達とやらも、うちのクラスのメンツに囲まれて、肩を組まれている。
座談会の隅で、青木はあいつに一生懸命話しかけられていた。
「青木、ありがとな…オレのために…こんなことまで」
青木の顔を正面から見れないのか、それともわざとなのか。
短い制服のスカートから生足をだす青木の、白い太腿を凝視している。
大切なチームメイト。でも、今は死ねばいいと思った。
「いや、いいよ。気持ちわかるし。…嘘ついちゃうことってあるよな…」
「あおき…」
青木は嘘をついてるのか…。誰に、なんの嘘があるのだろう…。
いつもより長い睫を震わせる青木に、問い詰めたい気持ちになった。
「その、青木のことを彼女と言ったのは嘘だったけど…嘘じゃなくしたい…というか」
「ん?どういうことだ?」
「…青木。帰るぞ」
泣きそうな顔のチームメイトをにらんで、青木の手を引いて駅に向かった。
これ以上、続けられると、オレはあいつと一緒の部活に居られない。
そう、思ったから。
◇
「おい、井田。井田ってば…」
みんなの姿は見えない。だから、手を引く理由なんてないんだけど…。
ただ、触りたかっただけ。青木の手に。
「なんだよ急に、お前おかしいぞ」
青木と見つめあう。時々かわいく思えるが、常に可愛いになっている。
可愛いだけじゃない。…のも知ってる。
「もう、話ついてるし。長居しなくてもいいだろ。
あいつのあんな嘘に、青木が身を削ることはなかったんだ…」
青木の目が揺れる。なんだろうな。このもどかしい距離感。
オレたちって、この距離でいいのかな。
「俺はあいつの気持ちわかるから…俺で役に立てるなら、それでよかったんだよ…。
それに、一緒に合コンに行った仲だし?
付き合うとかは無理でも、友達としてなら、頑張ってあげたいなぁ…って」
面白くない。そう思って、青木の手を強く握る。
「じゃあ、オレも友達だし。いいよな?」
そう言って抱き寄せた。
「ほえ?」
素っ頓狂な声をあげて、青木が腕の中に納まる。
「写真撮ろう。恋人同士みたいなやつ」
青木の顔を見ると、真っ赤だった。
なぁ、青木。お前の嘘ってなんだろうな?
◇
「豊田…だっけ?井田とは、昔からなの?」
「ああ、おさななじみ。相多は青木とは?」
「高校からだけど…」
本日のヒロインである青木が居ない。とクラスメイトが騒ぎ出してから数分が経った。
嫉妬丸出しの井田が連れ去ったのだが、周りには言わないことにした。
置いて行かれた大男を慰めていると、彼のスマホが揺れる。
涙目でタップすると、大男は号泣した。
スマホを覗くと、手をつないだカップルの写真があった。
井田から送られたものだった。
「井田って昔から、こんなんなの?」
「ここまで、こじらせてる…とはねぇ」
とっとと、告っちゃえばいいのに…。
二人は友人を想い、ため息を吐いた。
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